JCA-NETは下記の共同公開書簡の署名団体になりました。

テクノロジーを駆使したベネズエラの政治的暴力に関する公開書簡

公開日: 2024年8月5日
最終更新日: 2024年8月19日 2024年8月19日

私たち、以下に署名した団体および世界の人権団体のメンバーは、ベネズエラの人々がインターネット、ソーシャルメディア、その他のコミュニケーション・チャンネルに常に自由にアクセスできるようにすることを緊急に要求する。私たちはまた、特に7月28日の大統領選挙をきっかけに、政治的異議申し立て者の監視と迫害のためにテクノロジーツールやデジタルプラットフォームを使用することをやめるよう要求する。このコミットメントは、ベネズエラの憲法と国際公約に謳われている権利を尊重するために極めて重要である。

先の大統領選挙後に勃発したベネズエラの危機では、ベネズエラ国家が近年構築してきた監視・管理装置が大幅に導入された。この装置は、コミュニケーションテクノロジーに関連するさまざまな要素と相互に絡み合っており、同国の市民社会やインターネットの自由を擁護する団体によって繰り返し非難されてきた。ニコラス・マドゥロ政権は、この1週間で2,000人以上を逮捕したことを公表しており、殺害された人々や行方不明になった人々の数は不明だが、多くの情報源は、少なくとも20人が抗議行動で殺害され、さらに25人が強制的に行方不明になったと指摘している。私たちは、20年以上にわたる公共政策と狡猾な政治的イニシアチブによって作られた複雑なシステムの結果を目の当たりにしている。これは、検閲、通信インフラの機能低下、組織的な嫌がらせ、情報操作、報道機関の閉鎖などによる情報へのアクセスに対する複数の制限を組み合わせたものである。私たちはさらに、複雑な利害関係者のネットワークと、多くの場合、貧困に追い詰められた人々に適用される監視テクノロジーを採用している。

ベネズエラの社会政治環境は、権威主義的統治、経済的不安定、社会不安が複雑に絡み合っている。マドゥロの支配の下、国家は、広範な監視、検閲、反対意見の隠匿など、管理維持のための抑圧的手段への依存を強めている。最近の大統領選挙が示すように、人口の大部分は与党の不始末と人権侵害に不満を抱いている。ハイパーインフレ、食糧・医薬品不足、広範な貧困が危機を悪化させており、経済状況は依然として悲惨である。これらの課題は、ベネズエラの人々の不満と反発を増大させ、頻繁な抗議行動を引き起こし、より良い機会を海外に求めたり、政治的暴力から逃れようとして国外に脱出した人々の数は780万人に上っている。このような状況の中、政府はデジタルや物理的な手段を通じて人々に対する支配力を強め続け、民主主義の規範をさらに侵食し、平和的な反対の手段を制限している。

選挙後のテクノロジー

7月28日の大統領選挙後、警察、軍、準軍事組織による暴力的な弾圧や、テクノロジーを利用した嫌がらせや迫害戦略の報道があった。政府はデジタル監視と検閲の手段を強化しており、メッセージングアプリのVenAppなどのツールを使用して、反対派の活動を報じるとともにデモ参加者のDoxを行い、ビデオ監視でデモを監視し、パトロール用のドローンを使用して広く恐怖を煽っている。

VenAppは、この監視体制の最新の進化を象徴している。2022年12月の発売以来、プライバシーと国家監視について大きな懸念を引き起こしてきたこのアプリケーションは今、市民が隣人について通報する手段としてニコラス・マドゥロ大統領によって推進され、監視と管理の文化をさらに定着させている。このシステムは現在、ユーザーが国家によって疑わしいとみなされる活動を当局に通報できる機能を組み込んでおり、「guarimba fascistista」(反対派の抗議活動を表す言葉)、略奪、治安の悪化、さらにはジャーナリストを標的にした「偽情報」などのカテゴリーをカバーしている。チャビズモの迫害の実践にデジタル・プラットフォームが統合されたのは、政治的反体制の告発を通じて社会的情報を得るために、罰と報酬のシステムを構築するという数十年にわたるパターンに従ったもので、地元の党の 「ストリート・ボス 」と 「パトリオタス・コポランテス 」として知られる密告者の構造を通じて社会に組み込まれている。政府は、自分たちのパワーに挑戦する民主主義者を、潜在的な陰謀家や不安定化要因とみなし、不信と監視の環境を醸成し、内部の敵とみなした人々を標的にした。

治安部隊が市民を呼び止めて、写真やソーシャルメディアのアカウント、WhatsAppの会話など、携帯電話の中身をチェックするという報道が頻繁になされている。このような捜査で発見された内容に基づいて人々が拘束されており、その中には抗議活動の写真や議論、反政府的な言論の例も含まれている。

この枠組みは、社会福祉プログラムにリンクしたデジタルIDシステムである「Carnet de la Patria」と「Sistema Patria」の導入とともに発展してきた。このシステムは市民の行動を追跡するだけでなく、しばしば同意なしに膨大な個人データを収集してもいる。監視システムは大統領府に直接報告されている。大統領直属の国土安全保障戦略センターは、すべての国家安全保障作戦を監督する責任を負っている。国家電気通信委員会は、電話通信とインターネットトラフィックの監視を担当している。システマ・パトリア(国土システム)はパトリア財団の一部で、副大統領府に属する。ボリバル国家情報サービス(SEBIN)は、政治情報と防諜を担当する治安部隊で、軍事防諜総局と同様に、電話監視と街頭監視に直接アクセスできる。

ソーシャルメディアと監視テクノロジー

さらに、治安部隊はソーシャルメディアを積極的に監視し、反体制派のオンライン活動を通報するよう支持者に求め、令状なしに人々を逮捕し、自宅や 事務所を家宅捜索している。そして、これらの人々は、公正かつ公平な裁判を受けることを拒否され、ニコラス・マドゥロの言葉を借りれば、「赦されることのない」「再教育センター」に入れられる。これは、「トゥントゥン作戦」(ノックノック作戦)として知られるもので、反体制派の名前、写真、住所、特に活動家やジャーナリストだけでなく、選挙中に投票所の立会人を務めた一般市民の名前、写真、住所をネット上に曝するために、InstagramとTelegram、X(旧Twitter)のアカウントを使用することが含まれる。多くの場合、曝し者とする行為[doxing]は自分たちの隣人によって行われる。

マドゥロ政権の政治指導者たちは、反体制派をあぶり出し、威嚇するために、国営メディアだけでなく、ソーシャルメディアのアカウントも使用している。チャビスモの実力者ディオスダド・カベロが、自身のテレビ番組でユーザーのツィートを調べているのがその例だ。

このデジタル締め付けは、ベネズエラの人々のデジタルの権利を制限するだけでなく、政権が政治的に不安定な環境の中で権力を維持し、反体制派を鎮圧する手段としてテクノロジーに依存していることを浮き彫りにしている。選挙の余波は、国家が高度なテクノロジーを使ってコンプライアンスを強制し、反対意見を封じ込めるという、より広範なデジタル権威主義の戦略を浮き彫りにしている。

さらに、ベネズエラ政府は長年、監視テクノロジーを使って反対派を迫害してきた。中国のハイテク企業ZTEは少なくとも2016年からベネズエラに監視テクノロジーを輸出しており、2021年にはマドゥロ政権がイスラエル企業Cellebrite製の電話ハッキングテクノロジーを所有していることを公に認め、反体制派のデバイスに介入し監視するために使用した。2022年、ベネズエラでMovistarとして事業展開しているTelefónicaは、前年にベネズエラで150万人(158万4547人)以上の加入者の通信を傍受したと報じられている。これは、電話またはインターネット回線ユーザーの5人に1人に相当する。

検閲とインターネットのフィルタリング

ベネズエラのNGO「Conexión Segura y Libre」により報じられているように、選挙キャンペーン期間中、選挙後に行われたブロッキングを除いて、メディア、人権団体、VPNに対するブロッキングが少なくとも12件新たに行われた。選挙は規制された情報エコシステムの中で行われ、自由で十分な情報を得た上での参加の保証を減らした。さらに、野党指導者が批判的な論説を発表した後、ウォール・ストリート・ジャーナルへの アクセスが遮断された。現在までに、62のメディアが最大手のインターネットサービスプロバイダーによってブロックされ、86のドメインが影響を受け、合計431のブロックの事象が発生している。さらに、9つの人権団体のウェブサイトもブロックされ、合計41のブロックの事象が発生している。ニコラス・マドゥロは8月5日(日)、ベネズエラでTikTok、Instagram、Xを規制またはブロックする意向を表明し、これらのアプリが 「憎悪とファシズム 」を増大させる 「主な手段 」であると非難した。

こうした抑圧的な措置にもかかわらず、市民社会とジャーナリストは抵抗を続けている。Noticias Sin FiltroやEl Bus TVなどのイニシアチブは、検閲を回避し、人々に重要な情報を提供するための創造的な解決策として登場した。たとえばEl Bus TVは、公共バスで移動する人々に直接ニュースを届けている。こうした努力は、権威主義に直面したベネズエラ人の回復力と適応力を際立たせている。

アイデンティティ管理

同時に、人権活動家たちはパスポートが無効化されていることに気づいた。8月3日(土)、活動家のイェンドリ・ベラスケスは、国連の「あらゆる形態の差別の撤廃に関する委員会」の第113回セッションに出席しようとして空港で拘束された。同国には、身分証明書を政治的武器や管理する仕組みとして使用してきた長い歴史がある。2024年2月には、活動家のロシオ・サン・ミゲルが同様の状況で拘束され、現在も拘束されている。このデータベースに含まれる情報や、データがどのようにリンクされ、使用され、転送されているかは、プライバシーを保護したり、データの転送を防止したりする法律がない限り、確認することは不可能である。こうした仕組みを通じて、マドゥロ政権はベネズエラ人の自由に移動する権利を取り締まり、国内に住む人々だけでなく、ディアスポラに住む780万人のベネズエラ人に対しても、身分証明書や市民権さえも拒否、遅延、剥奪するという脅しを通じて攻撃を加えている。

ベネズエラがこの複雑な政治情勢を乗り切る中で、デジタル領域は依然として重要な戦場となっている。テクノロジーが弾圧の道具として使用されることは、デジタル上の権利と自由を強固に保護する緊急の必要性を浮き彫りにしている。現在の状況は、個人の自由を脅かすだけでなく、ベネズエラ社会の構造そのものを弱体化させ、恐怖と猜疑の文化を生み出し、長期にわたる結果をもたらしかねない。

海外にいるベネズエラ人は、国内の人々がもはやできないことを報道し続けようと努力している。しかし、政府のデジタル宣伝部門は、こうした声を封殺しようと手を伸ばしている。状況は切迫しており、それに対して声を上げることが不可欠だ。それは、数々の不正や、国家の治安部隊によって失われたり途絶えたりした多くの人命のためだけでなく、ベネズエラが他の場所への警告の役割を果たしているためでもある。ベネズエラでの弾圧は、ニカラグアやキューバで見られた戦略と呼応しており、市民や移民、少数派の人々を管理するために使用するテクノロジーの普及や権威主義の急激な高まりを考えると、他の多くの社会でこれから起こるかもしれないことを予兆している可能性がある。

行動への呼びかけ

現在の危機的状況を踏まえ、私たちはベネズエラ政府とすべての当局に対し、ベネズエラの政治的異議申し立て者を監視、抑圧、嫌がらせ、迫害し、情報へのアクセスや結社・平和的集会の自由を抑制するためにテクノロジーを使用・乱用することをやめるよう求める。すべての当局は、そして政治的権力を持つ者は人権を尊重し、すべての市民、特に国の出来事を取材し、人権侵害を記録し、選挙プロセスの完全な透明性の実現に取り組む人々の安全を確保するために、国際基準に従って行動することが不可欠である。

さらに私たちは、米州機構(OAS)、表現の自由に関するOAS特別報告者(RELE)、米州人権委員会(IACHR)、表現と意見の自由に関する国連特別報告者、国連人権高等弁務官事務所、テクノロジーに関する事務総長特使事務所、国際社会、ニコラス・マドゥロ政権と定期的に連絡を取っている国々に対し、政治的統制を強め、反対意見を迫害する人権侵害とテクノロジーツールの乱用を非難するよう求める。これらの主体は、表現の自由、結社の自由、インターネットにアクセスする権利に関する国際法を遵守するよう、ベネズエラ政府に直接働きかけるべきであり、それによってベネズエラの市民空間の保護と回復に貢献することになる。

署名団体(2024年9月4日現在)

100% Estrógeno ONG
Acceso Libre
Access Now
Acción Ciudadana
Apogee Strategic Partners, LLC
Azerbaijan Internet Watch
CEJIL
Center on Race & Digital Justice
Centro Latinoamericano de Investigaciones sobre Internet (CLISI)
Centro de Justicia y Paz – Cepaz
Centro de Estudios en Tecnología y Sociedad (CETYS) de la Universidad de San Andrés, Argentina
CIVILIS
Colectivo +Voces (Cuba)
Committee to Protect Journalists (CPJ)
comun.al, Laboratorio de resiliencia digital
Conexo
Conexión Educativa
Conexión Segura y Libre / VE sin Filtro
Cooperativa Sulá Batsú
Democracia en Red
Derechos Digitales
Diálogo por Venezuela-Francia
Digital Action
Digital Defenders Partnership
Digital Grassroots
Digital Rights Foundation
Electronic Frontier Foundation
Equality Labs
Fight for the Future
Freedom House
Fundación Internet Bolivia
Fundación Karisma
Fundación para la Libertad de Prensa (FLIP)
Global Digital Inclusion Partnership (GDIP)
Gobierno y Análisis Político AC
Hiperderecho
Huaira Foundation
Human Rights Foundation
IFEX ALC
Index on Censorship
ININCO-UCV
Instituto de Sociedad de la Información y Cuarta Revolución Industrial – ISICRI
Instituto Panamericano de Derecho y Tecnología – IPANDETEC
ISOC capítulo República Dominicana (ISOC-DO)
Ipys Venezuela
JCA-NET(Japan)
Jonction, Senegal
Laboratorio de Datos y Sociedad (Datysoc, Uruguay)
LaLibre.net Tecnologías Comunitarias
LOQUESIGUE.TV
Majal.org
Myanmar Internet Project
Numun Fund
ONG Amaranta
ProBox
RedesAyuda
Robert F. Kennedy Human Rights
@segudigital
Ser Valiente en Red
Session (OPTF)
Slashroots
SocialTIC
Tech Global Institute
The CESI Foundation
The Distributed AI Research Institute (DAIR)
Tifa Foundation, Indonesia
Ubunteam
Unasam
Vita Activa
Washington Office on Latin America (WOLA)
Whistleblower Aid
Whose Knowledge?
Witness

個人の賛同者は省略。下記の英文サイトをごらんください。
出典:https://www.accessnow.org/press-release/open-letter-technology-enabled-…